2026年2月
Technology Infrastructure Analysis


1. 計画の概要

SpaceXはFCC(米連邦通信委員会)に対し、
高度500〜2,000kmの地球低軌道に最大100万基の「Orbital Data Center system」を展開する構想を申請した(File No: SAT-LOA-20260108-00016)。

この構想は、従来の通信衛星コンステレーション(Starlink)とは異なり、
宇宙空間でAI計算処理を実行することを目的とする衛星群である。

重要なのは、
この計画が「通信網の拡張」ではなく、計算インフラの宇宙化を目指している点にある。


2. システム構造(三層モデル)

今回の構想は、機能的に以下の三層に整理できる。


① 計算層(Compute Layer)

AIデータセンター衛星(最大100万基)

・役割:AI推論・並列演算処理
・主通信:光衛星間通信(OISL:Optical Inter-Satellite Links)
・地上向けKuバンドアンテナは非搭載
・管理用としてKaバンドを搭載

この衛星群は、ユーザーと直接通信せず、
既存Starlink衛星群を経由してデータを受け渡す設計とされている。


② 通信リレー層

既存のStarlink衛星群(Gen1 / Gen2)

・ユーザーリンク:Kuバンド
 - ダウンリンク:10.7–12.7 GHz
 - アップリンク:14.0–14.5 GHz

・ゲートウェイリンク:Kaバンド
 - ダウンリンク:17.8–18.6 GHz
 - アップリンク:27.5–30.0 GHz

この層が地上との接続を担う。


③ 地上層

・Starlinkゲートウェイ局
・ユーザー端末
・クラウド/企業システム


3. なぜ宇宙で計算するのか

この構想の背景には、地上データセンターが直面する3つの制約がある。


① 電力制約

地上AIデータセンターは数百MW〜GW級の電力を消費する。

宇宙では:

・太陽光発電は大気減衰がない
・地上到達日射量:約1,000 W/m²
・軌道上日射量:約1,360 W/m²

約30〜40%高い入射エネルギーを得られる。

ただし、発電効率自体は太陽電池性能に依存するため、
発電効率そのものが劇的に高いわけではない。

利点は「安定性」と「送電不要」である。


② 冷却環境

宇宙空間の背景温度は約3K(−270℃)だが、
真空中では熱は放射でしか逃げない。

つまり、

宇宙は冷たいが「自然対流がない」ため冷却は容易ではない。

放熱は:

・大型ラジエーター
・放射冷却設計

に依存する。

Starship級の大型打上能力が前提であれば、
大面積放熱板の搭載は物理的に可能になる。


③ 通信遅延

光の伝播速度:

・真空:約300,000 km/s
・光ファイバー内:約200,000 km/s

軌道高度500kmの場合、往復約1,000km。

理論的往復遅延:

約3.3ミリ秒(純粋光速ベース)

地上間長距離光ファイバーより短くなる可能性がある。

ただし実運用ではルーティング遅延が加わるため、
実効値は設計次第である。


4. 光通信(OISL)と周波数の比較

光衛星間通信(Laser / OISL)

・通信速度:数十Gbps〜100Gbps級(Starlink既存機で実証)
・電磁干渉なし
・指向性が高く安全

100万基規模となると、
同規模のレーザー通信モジュールの製造が必要となる。


Ku / Kaバンドとの比較

技術 周波数 特徴 速度目安
Ku 10–14 GHz ユーザー接続 数百Mbps〜Gbps
Ka 17–30 GHz 高容量リンク 数Gbps
Laser 光帯域 衛星間大容量 10〜100Gbps以上

今回の計算衛星は:

・メイン通信=レーザー
・管理用=Kaバンド

という構成である。


5. 最大の課題:半導体供給

100万基構想で最も不確実性が高いのは、

AI演算用プロセッサの供給能力

である。

仮に:

・1基あたり数十〜100kW消費
・GPU/NPU多数搭載

とすると、
必要チップ数は現在の世界年間生産量を大きく上回る可能性がある。


Tesla Dojoとの関係

Teslaは独自AIプロセッサ(Dojo)を開発している。

ただし:

・現状は地上用途
・宇宙耐性設計ではない
・放射線対策未公開

宇宙用途には:

・SEU耐性
・ECC強化
・冗長設計

が必要となる。

したがって、

Teslaプロセッサ転用は「可能性」ではあるが、
確定戦略ではない。


6. 100万基はなぜ必要か

AI処理は:

・演算量が極端に大きい
・並列化が可能

である。

1基あたり100kWと仮定すると:

100万基 × 100kW = 100GW

これは国家規模の発電量に相当する。

つまりこの構想は、

単一巨大施設ではなく、分散型超大規模並列計算基盤

を意図している可能性が高い。

ただし、

・軌道管理
・デブリ対策
・寿命管理

は前例のない規模となる。


7. 規制・現実的制約

・FCC承認プロセス
・軌道スロット調整
・天文学界の懸念
・宇宙デブリ増加
・国際周波数調整

いずれも長期的な審査対象となる。

100万基が即時承認される可能性は高くない。


8. 現実的評価

この構想は:

✔ 技術的に完全に不可能とは言えない
✔ ただし産業供給能力が最大のボトルネック
✔ 半導体・レーザー・打上能力の三要素が鍵

特に:

・GPU供給能力
・レーザー量産能力
・Starshipの量産打上

が実現性を左右する。


9. 結論

SpaceXのOrbital Data Center構想は、

・通信網の拡張ではなく
・宇宙を計算基盤として利用する設計

である。

技術的な基礎要素(太陽光、光通信、再利用ロケット)は既に存在する。

一方で、

最大の制約は「数」である。

100万基分の半導体、レーザー、打上能力を
どの速度で供給できるかが、現実化の分水嶺となる。

本構想はまだ申請段階にあるが、
軌道上計算インフラという概念が、
具体的な制度プロセスに入った点は重要である。

今後の焦点は:

・FCC審査の進展
・試験機の打上
・ハードウェア仕様の公開

である。

10.FCCへの申請概要etc

下記のFCCのリンクから一次情報を直接ご確認いただけます。

① FCC公式データベース(ICFS)の申請詳細ページ SpaceXが提出した申請書のステータスや添付資料が閲覧できるページです。

➁FCC公式通達(Public Notice) FCCがこの申請を受理し、パブリックコメント(意見募集)を開始したことを告げる公式文書です。

【分析上の注記】

本記事はFCC申請資料(SAT-LOA-20260108-00016)および公開情報に基づく分析を含みます。衛星あたりの電力規模、レーザー通信装置数、AIプロセッサ構成、量産コスト等は公開情報を基にした推定であり、SpaceXによる最終仕様ではありません。「最大100万基」は申請上の上限値であり、実際の承認数・展開規模は未確定です。

【免責事項】

本レポートは公開情報および規制申請資料に基づく分析であり、記載された数値・構成・市場規模は推定を含みます。技術実装、規制承認、量産能力、半導体供給状況等により前提条件は大きく変動する可能性があります。投資判断・政策判断を目的とするものではありません。