世界のLEO通信コンステレーション勢力図2026
Starlink一強と、各国が急ぐ「衛星通信の主権」
ASTRONAVI 編集部コラム / 2026年7月1日

いわゆる「日本版スターリンク」とも報じられるJ-LEOの事業者選定が、いま話題になっている。報道によれば、総務省のLEO衛星通信インフラ整備事業(J-LEO)の補助対象として、楽天グループと米AST SpaceMobileの連合が選定される方針と伝えられている(本稿作成時点では報道ベースであり、正式発表の確認が必要だ)。では、J-LEOとは何なのか。そして、世界のLEO通信コンステレーション競争のなかで、日本はどんな位置づけにあるのか——本稿で全体像を整理する。
J-LEOとは。総務省が2025年度補正予算1,500億円を基に進める、低軌道(LEO)衛星通信インフラの整備事業だ。「日本版スターリンク」と呼ばれるが、J-LEOが主目的に据えるのは、Starlinkの中核である「専用アンテナを使う衛星ブロードバンド」ではなく、市販のスマートフォンを衛星に直接つなぐ通信(Direct to Cell)——Starlinkで言えば派生的な領域にあたる部分——である(StarlinkにおけるD2Cの位置づけは別稿で詳しく整理した)。スマホ直接通信を日本国内で管制・運用できる体制を確立することを目指し、助成は事業総額の2分の1が上限で、プロジェクト全体は3,000億円規模に達する。狙いは明確で、特定の海外プラットフォームだけに依存せず、有事・災害時にも日本の意思で使える通信インフラを持つこと——いわば「衛星通信の主権」の確保である。
そして、この「主権」という発想は、日本だけのものではない。いま、低軌道に数百から数万の衛星を並べる「通信コンステレーション」を、各国・各陣営が競って構築している。SpaceXのStarlinkという突出した先行者がいる一方で、米Amazon、欧州、カナダ、中国、ロシア、そして日本が、それぞれ自前のネットワークを立ち上げようとしているのだ。
この投資競争を駆動しているのは、二つの動機である。ひとつは、いまだインターネットに接続していない約22億人(世界人口の約4分の1、ITU 2025年)という、地上網が届かない巨大な潜在需要。もうひとつが、ウクライナで明らかになった、安全保障インフラとしての価値だ。地上の通信網が破壊・妨害される状況で衛星通信が生命線になる一方、その可用性が特定の海外事業者の判断に左右されうるリスクが意識された。J-LEOが目指す「主権」も、この二つ目の動機から出ている。
では、世界の勢力図のなかで日本はどこにいるのか。2026年6月時点の全体像を、一覧で見てみよう。
世界の主要LEO通信コンステレーション(2026年6月時点)
| 区分 | 事業者(国) | 現有機数 | 計画規模 | 打ち上げ | 性格 |
|---|---|---|---|---|---|
| 西側 商用 |
Starlink(米) | 1万機強 | 認可1.5万 | 自前 | 民間・過半 |
| Amazon Leo(米) | 約370機 | 7,727機 | 他社依存 | FCC期限超過 | |
| Eutelsat OneWeb(仏英) | 648機 | 次世代440機 | 他社依存 | B2B特化 | |
| Telesat(カナダ) | 0機 | 156〜198機 | 他社依存 | 政府・防衛 | |
| 国家 主導 |
中国 国網(GuoWang) | 百数十機※ | 約1.3万機 | 自前 | 安全保障 |
| 中国 千帆(Qianfan) | 約200機※ | 1.5万機超 | 自前 | 海外展開 | |
| ロシア Rassvet | 16機(うち1機焼失) | 900機超 | 自前 | 遮断され急ぐ | |
| 主権 コンステ |
EU IRIS² | 0機 | 約300機 | 欧州製ロケット | 主権・安全保障 |
| 日本 J-LEO | 構築前 | 数百機規模 | 未定 | 自律性・国内管制 |
※ 中国の機数は西側追跡機関の推定値。機数は基準日・追跡機関により変動する概数で、計画規模は事業者の目標値(現有数とは別物)。日本J-LEOは2026年6月時点で事業者選定の正式発表前。
出典:ITU「Facts and Figures 2025」、各社・各機関公開情報、米FCC、各国宇宙機関、専門メディア(2026年6月時点)。
この表から読み取れる3つのポイント
① Starlink一強の桁違い。Starlinkは軌道上に1万機強を運用し、1社で稼働衛星の過半を占める。これに対し、他はすべて数百機以下か、まだ1機も上がっていない計画段階だ。先行者の優位は規模だけでなく、商用メガコンステの中で唯一、自前ロケット(Falcon 9/Starship)による高頻度の打ち上げまで握っている点にある。
② 隠れた制約は「打ち上げ」。衛星を作れても、軌道に上げ切れなければコンステは完成しない。Amazon・OneWeb・Telesatは自前ロケットを持たず、しばしば競合であるSpaceXのFalcon 9に打ち上げを頼っている。Amazonに至っては、FCCが課す「2026年7月末までに半数」の期限に間に合わないとして延長を申請し、その後FCCが期限を猶予した。
③ 日本のJ-LEOも、この「主権」競争の一員。EUのIRIS²(予算106億ユーロ規模)、カナダのTelesat、そして日本のJ-LEO(全体3,000億円規模)は、いずれも純粋な採算性だけでなく、「自国で制御できる通信を確保する」という安全保障の論理で進む国家プロジェクトだ。日本では大手3社(ドコモ・ソフトバンク・KDDI)がStarlinkを採用するなか、楽天・AST系の提案が補助対象として有力視されており、採択されれば、この独自路線が日本の主権インフラの中核に位置づけられることになる。技術面でも違いがある。大手3社が使うStarlinkのスマホ直接通信が現状テキスト中心なのに対し、AST陣営は市販スマホへのピーク120Mbps設計(実測98.9Mbps・ビデオ可)と広帯域を狙う点で性格が異なる(本編で3方式を比較)。日本も、主権コンステをめぐる国際競争の一角に入りつつある。
本編(会員限定)では、さらに詳しく解説しています
本サマリ版では全体像のみを整理しました。会員向けの本編では、各コンステレーションの詳細(軌道・周波数・事業モデル・進捗の実情)、中国・ロシアの国家戦略、EU・日本の「主権」確保の中身、そして「打ち上げボトルネック」がなぜ競争の鍵になるのかを、一次情報をもとに掘り下げています。あわせて、日本のJ-LEO・楽天・AST連合をめぐる動きと、宇宙通信の関連企業も整理しています。
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本稿は、各社・各機関の公開情報および報道をもとにASTRONAVI編集部が整理したものです。衛星の機数・配備状況・各国の制度・選定結果等は変更される可能性があり、最新かつ確定の情報は各社・各機関の公式発表をご確認ください。特に日本のJ-LEO採択は本稿執筆時点で正式発表前の段階です。本稿は特定の銘柄・サービスの投資や購入を推奨するものではなく、投資・購入の判断は読者ご自身の責任で行ってください。